東京

東京

かのマルコ・ポーロが「東方見聞録」の中で"黄金の国・ジパング"と称した東の端に位置する国『日本』の首都

 

1966年6月、ビートルズが初めて演奏した武道館も、

三島由紀夫の小説に出てくる、本屋「雪重堂」の看板娘と東大生が出会った場所も、

男女が一つ屋根の下で繰り広げる甘酸っぱい恋愛模様の舞台も、

 

鈴木雅之菊池桃子が5時に落ち合う渋谷も、

 

全て東京なのである

 

 

その場所に、彼女は2年前上京してきた

 

実家は中国地方の片田舎にある。以前暮らしていた千葉県の漁師町も田舎であったが、その比ではないくらいの田舎であった。

"山陰"とはよく言ったもので、陽気な性格の彼女の父親でさえ、日本海から吹いてくる凍てついた風と冬場の天気の悪さから鬱病を発症させたくらいには田舎なのであった。

 

ど田舎生活に飽き飽きした彼女は、ある日上京する事を決意した。

 

行けども行けども広がる田園地帯

いつも行くコンビニのやる気の無いアルバイト店員

一時間に一本しか来ない電車

40年前に行ったハワイ旅行の話を、さも昨日行ってきたかのように話す隣のおばさん

 

私はいつまでこの生活を続けるのだろうか、いつまでこの変わらない風景を見続けなければ行けないのだろうか、このまま一生を終わらせるつもりなのだろうか。

そんなことはあってはならない。

 

彼女が上京を決意したのはそのときだ。

 

 

東京は夢の場所であった。

彼女の知っている世界のすべてが詰まっている場所、むしろ東京が世界の中心と言っても過言ではなかった。

 

その地に彼女は2年前の冬、一人で上京してきた

 

親に頭を下げて入学させてもらった大学は中央線沿いにある

(中央線。なんと都会的な響きであろう)

上京までの数日間、彼女はそこでのキャンパスライフと初めての都会暮らしに妄想を膨らませていた

 

 

コーヒーと音楽鑑賞が趣味な友人と週末は吉祥寺にでかけ、

夜は小洒落たバーでカクテルを飲み、

遅くなれば年上の優しいボーイフレンドが車で迎えにきてくれて、そのまま夜の湾岸線をドライブする

 

それらが現実になる場所は東京しか無いのであった

 

新居は、東京スカイツリーのふもとに決めた

東北で起きた震災の翌年に完成したその電波塔は、東京タワーに取って代わる、新しい時代のシンボルになった

「私の時代だ。絶対に東京で立派になってやるんだ」と、

高速バスの窓から覗いてみえたその建造物を眺めながら彼女は強く思った

 

 

 

 

が、そんな幻想も数ヶ月後には消えてなくなった。

消えたというより、彼女は誤解していただけなのである。

 

 

そもそも「雪重堂」など存在しないし、

あのテラスだかベランダだかが付いた豪華な家なんて家賃が高くて入れない。

もっと言えば男女共同で住めるシェアハウスは滅多に無いし、

渋谷は待ち合わせ場所には最悪、武道館では今まで名前を聞いた事も無いバンドが婦女子から黄色い声援を受けながら演奏できる場所になってしまっていた

 

 

年上の彼氏どころか、もう恋愛には3回も失敗したし、コーヒーよりも酒が好きな悪友ができたし、電車地下鉄バスタクシーに恵まれている都内では車を保有している人が少ない事も知った

 

最近ではもう東京スカイツリーは見飽きて感動すらしない
ただ毎日、ひたすら溜まっていく課題と、減っていく貯金残高に怯える生活を繰り返している

 

あの時の妄想は、もうただの妄想でしか無くなってしまったのか。

希望はまだ捨てられない

 

 

 

 

 

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